東京地方裁判所 昭和24年(ヨ)3330号 決定
申請人 三菱化工機川崎労働組合
右代表者 執行委員長
申請人 三菱化工機船橋労働組合
右代表者 執行委員長
被申請人 三菱化工機株式会社
一、保証 無保証
二、主 文
被申請会社が昭和二十四年十一月二十六日附を以て別紙目録記載の従業員に対してなした解雇の意思表示はその効力を停止する。
三、理 由
一、被申請会社が申請人等組合に所属する別紙目録記載の従業員に対し昭和二十四年十一月二十六日附を以てなした解雇の意思表示は被申請会社の従業員規則第十七条「解雇は従業員が組合員であるときは会社は予め組合の了解を得て行う」旨の条項に違反し無効である。以下その理由を説明する。
(一)、就業規則はそれが適法に制定されたものである以上労使双方に対し法的拘束力をもつものである。このことは労働基準法第九十三条の法意からしても明らかである。
(二)、労働協約と就業規則に同一内容の条項が存する場合においても労働協約の失効により就業規則の右条項が当然に失効するものではない。労働協約は労使双方の意思の合致によつて、成立するものであるが、就業規則は労働基準法第九十条所定の手続を履むことを要するとはいえ、終局的には使用者の一方的作成に係るものであり、しかも両者その成立の意義を異にするものであるから、たまたま労働協約と就業規則とに同一内容の条項が存するとしても、両者必ずしもその運命を共にすべきいわれがない。もつとも就業規則は労働協約に規定されていない細部事項を規定する場合が多いであろうが、両者の内容が重複することはなんら妨げなく、この場合当該事項は労働協約及び就業規則により二重の拘束を受けるが、労働協約が失効しても、就業規則の当該条項が改廃されない限り、依然としてその拘束を受けるものというべきである。
今本件についてこれをみるに、前記就業規則第十七条は被申請会社と申請人等組合との間に締結された労働協約第十七条と同趣旨の内容を包含し、右労働協約は昭和二十四年七月三十一日限り失効したことは当事者間に争ないが、被申請会社が前記就業規則の適法な改正手続を執れば格別、単にその改廃を欲する意思の表明だけで、就業規則は改廃されるものではないから、適法な変更手続の行われていない本件にあつては、前記就業規則第十七条の規定は労働協約の失効に関わりなく、有効に存続するものといわなければならない。
(三)、前記就業規則第十七条は通常時における個々の解雇にのみ適用あるものと解すべきではない。
本件就業規則のうち第十四条には解雇事由の一として「事業上の都合によりやむを得ない事由のあるとき」が掲げられており、同第十七条は右第十四条を受けて「前三条に謂う従業員が組合員であるときは会社は予め組合の了解を得て行う」と規定しているのであるから、事業上の都合によりやむを得ない事由のあるときでも会社は組合員たる従業員を解雇するには予め組合の了解を得なければならないことは明らかであり、今回の如き企業再建整備のための人員整理こそ正に事業上やむを得ない事由による解雇と目すべきものであるから、本件の場合右就業規則第十七条の適用あることは当然といわなければならない。
(四)、本件解雇については被申請会社は予め申請人等組合の了解を得たものとは認め難い。
「了解」という語の本来の意義は単なる意見の交換以上に相手方の納得を必要とするから「協議」よりむしろ「同意」に近い。しかし、かかる語義の詮索は暫く措き、労働法上信義則の観点からすれば、「同意」というもその「拒絶権の濫用」は許されず、また「協議」というも一片の交渉談議を以ては足らず慎重審議を遂げることを要するものと解すべきであるから、「同意」といい「了解」といい、あるいは「協議」というも結局は実質上その間に大差ないものと解するのを妥当とする。
今本件人員整理に関する双方の交渉経過についてみるに、申請人組合等と被申請会社とが右人員整理に関し第一回の団体交渉を持つに至つたのは昭和二十四年十一月十五日であるが、被申請会社は申請人組合等代表者と交渉に入ると同時に、直接各事業場所に人員整理に関する声明書、整理員数、整理基準、退職手当等に関する事項を掲示し、同月十九日限り退職希望者を募つた。これを知つた申請人組合等代表者は、被申請会社の右発表は、同会社がさきに組合の申入に対してなした「企業再建整備についての具体的計画については組合と協議する」旨の同月十日附回答を自ら破り、一方的に人員整理を強行せんとするものであるとしてその撤回を要求し、翌十六日、翌々十七日は被申請会社の企業整備に関する説明を聴取したのみで、退職希望者の申出締切日の撤回、延期方を要求したが、意見が対立して妥結に至らなかつたためその翌十八日の交渉には出席しなかつた。しかし、組合としては、被申請会社が前年夏約三百名の人員整理をしながら、その後いくばくもなくして給料の遅配を来し、従業員はその苦難に堪えて生産に従事してきたに拘らず再び三百名以上の人員整理をなすが如きは経済界の変動もさることながら経営陣の弱体にも基因するものとして強い不満を抱いていたが、事ここに至つてはもはや整理もやむなしとして、徒らに整理絶対反対、完全雇傭を主張することなく、でき得る限り退職希望者を募ることによつて解雇者を最少限度に喰止めんとし、この線に沿うて被申請会社と交渉をなし、これがいれられない場合に対処して同月二十一日を期し二十四時間スト決行を決議したものである。そして同月十九日再び団体交渉を開始し、最低限度の要求として希望退職の締切日の延期方を要求したが、受入れられなかつたので、当時まで組合側において集めた退職願百八十八通を一括して被申請会社に手交するとともにスト宣言をなして同月二十一日二十四時間ストを決行した。しかし翌二十二日組合側より更に円満解決のため団体交渉を申入れ、一日の冷却期間を置き、同月二十四日の交渉においては結局各事業場所毎に協議することになつたが、その協議期間につき被申請会社は翌二十五日午後六時までと限定したのに対し組合側はその延長方を要求し、両者折合わぬまま翌二十五日場所毎の協議に入つた。しかしながら被申請会社は組合側の要求に反し、整理員数、整理方法(退職希望者を募つてこれにより整理を完了するや否や)につき協議することを拒否し、単に被申請会社の定めた解雇予定者についての当否のみに協議を限定したので、申請人川崎労働組合との交渉はこのために決裂し、同船橋労働組合との交渉においては右議題につき意見の合致をみないまま、一応解雇予定者につき意見の交換がなされたが、もとより組合の了解を得る術もなく協議は打切られ、翌二十六日被申請会社は本件解雇の通告をなすに至つたものである。右の経過に徴すれば被申請会社は本件解雇につき申請人等組合の了解を得たものとは認められない。しかも申請人等組合が右了解を与えなかつたについては、申請人等組合になんら責むべき事由がないものと認められる。すなわち被申請会社が前記十一月十五日の第一回団体交渉に入ると同時に直接各事業場所に前記整理に関する事項を掲示し希望退職者を募つたことは甚だしく組合の存在を軽視した態度であつて、組合がこれに反対し、その撤回を要求したことも決して無理からぬことであり、また同月二十一日の二十四時間ストの原因は組合側が整理絶対反対を叫ばずでき得る限り希望退職によつて円満解決を図るべく、その募集を始めるとともに、その反面これを最低線として被申請会社に対し希望退職の締切日の延期方を要求したが容れられなかつたためであつて、当時既に希望退職者が多数出る見込があつたに拘らず、被申請会社が延期を肯じなかつた態度こそ納得できないものがある。
事実組合側の集めた希望退職者数は百八十八名、被申請会社で集めたものを加えれば同月二十四日現在で約三百名に上り、事業場所によつては予定整理人員を超えた位であるから、締切日を延期して更に募集を続け退職希望者と解雇予定者との喰違いにつき協議を遂げれば十分解決のつくことのように思われる(ちなみに昭和二十五年一月十日現在の退職者――解雇を承認した者を含む――総数は三百七十二名で当初の要整理人員数約三百七十名に達している)のに、これに至らなかつたのは、被申請会社が組合を軽視して自案を固執したため却つて申請人等組合を刺戟した結果に外ならない。
以上論断の理由により、本件解雇は被申請会社の就業規則第十七条に違反する無効のものといわなければならない。
(五)、被申請会社は本件解雇の通告を受けた者はいずれも被申請会社より離職証明書の交付を受けこれにより失業保険給付を受けているから本件解雇を承認したものであると主張するが、本件解雇の通告を受けた別紙目録記載の者は無条件で被申請会社より離職証明書の交付を受け失業保険給付を受けているのではなく、離職証明書の交付を求めるに当り、解雇につき紛争中なる旨の記載を被申請会社に要求したに拘らず、被申請会社はこれを拒絶したので、関係当局に対し係争中なる旨を具申し、訴訟において、解雇が無効と判定され所定賃金の支払を受けるに至つた場合にはその内より返済する旨を約して失業保険給付を受けているのであるから、本件解雇を承認したものとはいえない。
二、仮処分の必要性について
解雇が一応無効であると認められるに拘らず本案判決の確定に至るまで賃金の支払を受けられず、また就業を拒否せられることは、労働者として堪え難い苦痛であり且つ、今日の社会情勢下においては一旦離職すると容易に他に就職し得ないことも顕著な事実であるから蓄財のない別紙目録記載の従業員等にとつては正に死活の問題であり、(失業保険金は解雇が無効なる以上返還しなければならないものであるからその給付を受けていることは右認定の妨げとならない)。組合員の死活の問題は組合員保護の任にあたる申請人等組合にとつて当然緊急の関心事であるべきであるのみならず、組合員を失うことは組合の団結力を弱め組合自体としても著るしい損害というべきであるから、申請人等組合がそれぞれその所属組合員のため本件解雇の効力を停止しその身分を従前のそれに復する仮の地位を定める仮処分を求める必要は十分にあるといわなければならない。
以上は当事者双方の提出した疏明資料に基く一応の認定による判断であり、主文の如く決定した次第である。
(裁判官 古山宏 室伏壮一郎 今村三郎)
別紙目録省略